Don't Look Back

 「Hitachi Sound Break」という番組を覚えているでしょうか?
 平日の午後11時から始まる10分間(5分間?)のスポット番組だったけど、東京12チャンネル(現在のテレビ東京)で放送されていたので、もしかしたら知名度は関東圏だけの範囲に限られるかもしれない。これは「ベストヒットUSA」以前の音楽と映像のコラボレーションに成功した、日本で最初のプログラムかもしれない。

 それからちょっと前の洋楽情報番組というものは、なぜか組まれたセットの上で複数のダンサーが、流される音楽(あの頃は、Quincy Jonesの「愛のコリーダ」とか)にはほとんど関係なくやらしい笑いを浮かべ、くねくね踊るだけのイメージ映像だけで、子供ながらも「なんだこれ」と思っていたものだ。でも「Hitachi Sound Break」は、それまでの『洋楽=くねくねダンサー』の刷り込まれたイメージをきれいに払拭して、それぞれの曲にあった映像との共演が新しかった。まぁ内容としては、山下達郎の「Big Wave」には、ハワイでのサーフィンシーンが必ずかぶってくるような、黄金律の組み合わせだったけど、黎明期の AudioVisual番組としては十分のインパクトだったはず。

 その時に一番最初に聴覚と視覚に訴えたのが、Bostonの「Don't Look Back」。

 イントロから強烈かつ印象的なギターのリフから始まり、単純なハードロックとは明らかに一線を画したメロディアスな旋律。美しいボーカルとコーラス、その合間を縫うようなリードが心地よくうねる。そのサウンドと寄り添うように、西海岸(たぶん)の乾いた風景と色鮮やかなガラス玉と透明感溢れる水のイメージシーンが流れて、未だ行ったこともないアメリカへの憧憬を強くした(文章で書くと、非常に伝わりにくいし、難しい!)。

 1994年に発表された最新アルバム『Walk On』のクレジットにもあるように、サンプラーやドラムマシン(ハンドクラップも含む)は一切使わず、ストリングスも風の音でさえも本物にこだわっている(寡作なのはその病的なまでのこだわりが原因か?)。ワンマンリーダー Tom Scholzは MIT(マサチューセッツ工科大学)を卒業した技術者である("Rockman"ブランドのエフェクターを作っていたりする)が、決して技術偏重主義ではなく、スポーツとしての狩猟を嫌い、肉食反対、幼児虐待を激しく嫌うなど、生身の人間としてのメッセージがひとつひとつ重いし、説得力が強い。それは幾重にも音を重ねあわせ、隙のないほどの濃厚なサウンドを作り上げる Bostonの手法にも表れているような気がする。

 人気絶頂の頃に予定されていた来日公演は、機材があまりにも巨大すぎたため搬入できず(上陸もできず?)、公演が中止になったとの逸話が残っているけれど、それって本当は Electric Light Orchestraじゃないかな?機材ではなく、巨大だったのはあの UFOのセットだったんじゃない?
 まぁ、どっちも UFOをバンドイメージのモチーフにしているから、混同しているのかも。

P.S.
今日は誕生日でした。
こんな日に「Don't Look Back」、もう過去には振り返るなってことね。
わかりました、そうします。