冒険王


冒険王 / 南佳孝 (1984)

前々回の『パールトロン』のコメントの中に、Cosa Nostraコーザ・ノストラ)という言葉が出てきたので(というか、自分で言ったんだけど)、すぐにこのアルバムのことを思いだした。

『摩天楼のヒロイン』以来の(南佳孝松本隆)の黄金コンビによる20世紀少年少女音楽読本。巨匠・小松崎茂画伯の描く近未来の空想世界がとても印象的なジャケット(装丁)からして、虚実混交の冒険ファンタジーの世界が大きな口を開けて待っている。プラモデルの箱によく描かれていた小松崎氏の空想画は、今となってはチープな未来だけど、蛇のように螺旋を描いた透明チューブが走る未来都市と、その中を走る”浮かぶ自動車”は、60年代子供だったボクたちの遺伝子の中に「共通の夢」としてしっかりと根付いた。そんなわくわくするような冒険絵巻のBGMに登場するのは、空中庭園、世界を旅する巨大風船(映画「バロン」が思い浮かぶのは自分だけか?)、若い頃は学生運動に明け暮れ、今ではすでに疲れきったマフィアのボス、そして魔都に迷い込んだ少女パメラと冒険者...。

俺達の世界、つまりCosa Nostraコーザ・ノストラ)を守るマフィアのボスは、摩天楼に響く乾いた音とともに自ら死を選ぶんだけど、やはり南佳孝の世界。なにもかも解放されて、彼はそれで幸せなんだよと教えてくれるようだ(川島 BANANA 裕二さんのアレンジもいい)。

そのほか、編曲は清水信之さん、大村雅朗さん、井上艦さんで、当然すべてすばらしい。
だけど一番はこの曲、「冒険者」。

密林に浮かぶ月
川岸の野営地で 手紙を記すよ
元気だと書きながら
もう2度と会えぬかもしれないと思う

伝説の魔境に明日旅立つ
古い地図を胸に抱いて
黄金郷(エル・ドラド)探す

君を愛してる わかるだろう
もしも帰れなくても泣かないでくれよ

同年、マッキンリーで消息を絶った冒険家・植村直己*1に捧げられた曲。

この曲で泣けない人とは、ボクは一緒に冒険はできないだろう。

*1:ちなみに、『植村直己物語』(主演:西田敏行)という映画があったけど、当初は椎名誠をキャスティングしたかったらしい。