春がいっぱい

「憲司さん、ほら見て、春がいっぱい❸」
「え、...お、おっぱいですか?」
「バ〜カ(怒)」

このアルバムの発売当時、TBSラジオの「スネークマンショー」(スポンサーは小学館「GORO」)でよく宣伝されていました。「おっぱいですか?」は伊部雅刀さんですね、絶対。

実は、大村憲司さんの曲、よく知りません。数あるアルバムの中でも、これしかちゃんと聴いていないかも。
でも、振り返って見てみると、自分にとって重要ないくつかの場面で大きく関わっていることに気付きます。

それまでもおそらく知らず知らずのうちに聴いていたのだと思うのですが、初めて「これが、憲司さんのギターなんだ」と意識しながら聴いたのは、やはりYMOのワールド・ツアーでのライブ映像でした。その頃は音楽的に無知だったということもあり、YMOテクノサウンドにギターという組み合わせに、実は少し違和感を感じていました。あまりKYLYNと変わらないんじゃないかとか、だからまだフュージョンとかクロスオーバーとして扱われるんだと、「YMO以前」のロックの歴史など知らない「テクノおのぼりさん」状態だったあの頃は、そんな無知で失礼なことを思っていました。でも、そんな勘違いを正してくれたアルバムのひとつがこれ(もうひとつは高橋ユキヒロ「音楽殺人」)。

YMOのツアーでも憲司さんがボーカルをはっていた "Maps" は、ノイジーなギターとYMOサウンドが融合してとてもカッコいい。"Far East Man" は、あのGeorge Harrisonのカバー。"Seiko Is Always On Time" は、奥さんの名前を曲名にしてしまっています(アルバムのクレジットにも、しっかりと「This album is dedicated to my wife Seiko.」の文字が!)

でも、やはり一番自分の思い出に残っているのは、NHK FM 「ふたりの部屋」(月〜金、22:50からの10分間、あの「サウンドストリート」の次の番組)で、当時はまだ新人エッセイストだった椎名誠さんの「さらば国分寺書店のおばば」がラジオドラマ化されたときの挿入曲とエンディングに使われていた "春がいっぱい (Spring Is Nearly Here)" と "The Prince Of Shaba"。いずれもインスト(歌なし)で、聴くたびに心優しくなれる曲です。奥さんを想って創り、そして演奏したのかな。

これがきっかけで、椎名誠さんの作品を読み漁り、自らも怪しい探検隊を気取って、カヌーをし、仲間と焚き火を囲むようになりました。椎名さんを招いて、大きなホールを貸し切ってトークライブや映画の上映会も企画するようになりました。1998年には、自分の企画・演出で、カメラマンとしての椎名氏にスポットを当てたトークライブを行ったのですが、その時のエンディングテーマに大村憲司さんの "The Prince Of Shaba"を流させていただきました。最初の企画立案から当日の演出、そして撤収まで、今思い出すと大変だったけど、幕が降りる時に、観客が帰り支度をし始める時に、この曲をみんなと聴きたかっただけかもしれません。この曲が流れ始めて、何人か出口に向かう足が止まる方が何人かいらっしゃいました。きっと、その人たちも同じ時間にあのラジオを聴いていたのかな。

同じ1998年2月、大村憲司さんはお亡くなりになりました。
獅子座流星群の星が群れが空を駈ける日でした。

大村憲司を知ってるかい?
http://www.1101.com/omura/2001-04-13.html