Romantique

tinpan1973さんの『Aventure』への深い想いがしたためられたDiaryを読ませていただいて、改めて無性に聞きたくなった。でも、大貫さんの音源のほとんどはテープで、遠く実家のクローゼットの奥にしまったまま。名盤と信じて疑わないものなのに、近くのTSUTAYAにはレンタルCDもない(というか、大貫妙子のカテゴリーさえもない)。
どういうことか。

ということで、買ってしまいました。音楽CDを買うこと自体、本当に久しぶり。思わぬところで、ここ数年で音楽の購買スタイルが大きく変わったことに気付かされる。

YMOで目覚め、矢野顕子さんや Plasticsでさらに無邪気(のように見えて、当然かなり計算された)なポップなテクノの洗礼を浴びたところに、衝撃的な一曲目「CARNAVAL」。大貫妙子さんのソロ4作目となる『Romantique』は、これまでのやや内向きだった自分の音楽の方向性を、さらに中へ中へとに向けさせながらも、歌詞やそのヨーロピアサウンド(陳腐な表現ですが)で視野を広げてくれた重要な作品となった。

奥村靫正さんのアートワークが印象的なジャケットからも、ちょっと近寄り難い"謎の女"の香りが漂う。そして問題の「CARNAVAL」。地を這うようなベースライン(細野さん?明らかにシンセベースだけど)と正確無比なドラムパターン(幸宏さん)が絡むこのイントロは完全なテクノ。だけど、当時すでに歌謡曲にも浸食していった耳馴染みのいいテクノとはまるで違っていた。陰鬱、憂い、悲しみ...。あまり感情移入が少なく、淡々と歌っているように聞こえる(それでいて、芯が太い)大貫さんの歌声とが重なって、どっぷりその世界にはまってしまう。うねるシンセソロ(もちろん坂本教授)はエンディングまでかっこいい!

ただ、そのテクノテイストの曲はこの一曲だけ。それから先は、『Aventure』『Cliche』『Signifie』と後続のアルバムへ脈々と受け継がれる「ヨーロッパ路線」の曲が続く。どこか古いフランス映画で見たような世界に引き込まれる。「ディケイド・ナイト」のような奔放でどこか猥雑な夜の街の風景もいいけれど、物語から切り取られた生活の一部を歌う曲が好き。
特に「若き日の望楼」がいい。

あの頃 朝まで熱く パンとワインで 私たちは語った
馴染みの狭い酒場に 通いつめては 仲間たちをいやした
そしてあの頃のあなたも若くて 頑に愛し合い 
それがすべてだった 生きるすべてだった
貧しい絵描きの家に 子供が生まれ 祝い酒を囲んだ

貧しく、ほの暗い日々の中にも小さな希望を見つけて、たくましく生きる市井の人々の歌。
う〜ん、耽美的ではないですか。

そして、このストーリーは「ブリーカー・ストリートの青春」(『Aventure』)の回想に遡り、「風の道」(『Cliche』)へと連綿と続くのであった(「クロスオーバー・イレブン」のナレーションで)。

しかし、振り返ると高校生でこんな崇高な音楽を聴いていたとは、根が暗かったのかな。
後悔はしていないけど、まったく。


P.S.
問題の曲「CARNAVAL」の衝撃度を他の曲で例えるならば、Eurythmicsの『Sweet Dreams』あたりかな、自分の場合は。この曲もイントロから強烈でした。

スイート・ドリームス

スイート・ドリームス