Vitamin EPO (1983)

初めて EPOさんの歌声を聴いたのは、確かAMラジオ局のジングル*1だったと記憶している。ほんの数秒間だったけど、澱みがなく、伸びやかな声とコーラス(おそらく全部ひとりで多重録音したもの)に、FENに通ずるアメリカっぽさを感じて素直に「かっこいいな」と思ったものだ。実際に、EPOさんはそのようなジングルの作成を依頼されてはかなりの量をつくっていたようで、ついには架空のラジオ局「JOEPO」をモチーフにしたアルバムまで作ってしまったほどだ*2

デビュー曲が、SugarBabeの「Down Town」*3のカバーだったことから、山下達郎さんや名だたるミュージシャンたちのバックアップがあって、はじめから恵まれていたんだと思う。ポップアートで彩ったそのジャケットと、体育大学の学生だったいう健康的なイメージから、わかりやすく明るいアメリカンポップスシンガーの強い印象が刷り込まれた。それに加えて、上質の楽曲の上に彼女の歯切れのいいボーカルが乗るだけで、盤石というと大げさかもしれないけれど、不思議な安定感を感じることができた。歌詞をメロディをちゃんと聞き手に伝えている、真面目なボーカリストとして、幸せな80年代を、さらに豊かにしてくれた。

当時は、誰がアレンジャーかで聴く音楽を選んでいた傾向が自分にはあって(今も変わらないけど)、清水信之さんや大村雅朗さんが編曲したものばかり聴いていた。なので、(EPO+清水信之)の組み合わせは最強のものに思えた。でも、今になって改めて聴き直すと、「くちびるヌード・咲かせます」*4とかは、YAMAHA DX7の琴の音とか、プリセットではきらびやかすぎる音がそのまま使われていたり、時代が感じられておもしろい。これも"狙い"なのかな〜?

"時代"と言って思い出したけど、このアルバムに収録されている「PAY DAY」、つまり"給料日"のことを歌ったものだけど、

PAY DAY PAY DAY It's PAY DAY
土曜のアバンチュール

とあるけど、まだ週休二日制も、自動振込もまだ定着する前だったんだね。
そうそう、前にエントリーした大貫妙子さんの『Romantique』にも、キエフとかモスクワとかロシアの地名が出てくるけど、まだその頃はソビエト連邦が存在していたんですよ。なんか、遠い目になってしまいます。

それから EPOさんは打ち込み中心の楽曲から、生のバンドサウンドへ定住の地を移すのですが、確かに「Harmony」「音楽のような風」で聴ける歌声のほうが気持ちが良さそう。EPOさんが大好きだという、カーペンターズのカレンがそのまま歌っても、ぴったりの名曲です。

*1:番組と番組をつなげる短い間奏曲

*2:3rd Album『JOEPO 〜1981KHz』

*3:作詞:伊藤銀次、作曲:山下達郎

*4:6th『HI・TOUCH-HI・TEC 』収録、最初は高見知佳に提供

ぼくのなつやすみ

ちょっぴり青空が戻ってきて、これからようやく夏が始まる感じ。槙原敬之さんの曲にあるように、店先のスイカの切り口が笑っているように見える、そんな子供のような軽やかなで自由な気持ちを思い出させてくれそう。

小学生の頃の夏休みといえば、毎年静岡県と愛知県の県境にある、山深い両親の郷里に遊びにいくのが通例だった。母親としては里帰り、仕事で忙しい父親としては久しぶりの自由な独身生活(いったい何をしていたんだか)という意味があったけれど、自分にとっては大げさに言うと「野生に戻る」というか、ほとんど手つかずの自然の中に解き放される素敵な日々だった。
だって、ほぼ一ヶ月間滞在して、夏の終わりにはまるで現地の人のように、方言が自然に出てくるようになるんだもの。夏休みの原風景はこんなところにあった。

川で泳ぎ、釣れない魚を追いかけ、すいかやとうもろこしをほおばり、毎日花火を楽しむ。入道雲、にわか雨、夏祭り、終戦記念日、そして盆踊り。親戚が後から遊びに来ては,先に帰りだす。夏ももうそろそろ終わりに近づくなと思うと、それだけでなんだか切なくて、喉の奥がきゅーんと痛くなった。おじいちゃんとおばあちゃんの喜ぶ顔は今年も最初に見れたけど、寂しい顔をまた最後に見なくちゃいけないんだな。

ぼくのなつやすみ」で描かれる真夏の田舎は、まさに自分の見てきた風景そのもの。小さな探検にドキドキし、蛍の舞う夕暮れにうっとりしたり。地元の子供と一緒になって遊んだり、記憶の中のビデオでも見ているようにうれしくなる。ほんの数年前にやったこのゲームを、その頃はまだ生まれてもいなかった自分の娘(4歳)と一緒にやっている。遊んでいるときは、子供の頃の自分もどこからかやって来て、まるで三人でやっているかのような気分になる。

13回忌を迎え、9月にはあの懐かしい田舎に行く。
もう長いこと帰っていないから、どんなに変わっているのか正直怖い気がする。妻も娘も連れていくのは、これが初めて。最初の挨拶の機会が法事になっちゃったけど、許してくれるかな。
おじいちゃんとおばあちゃんの喜ぶ顔を、家族の二人に初めて見せてあげられるかな。

そんな長い長い「ぼくのなつやすみ」の "宿題" は、もうすぐ叶う。

Romantique

tinpan1973さんの『Aventure』への深い想いがしたためられたDiaryを読ませていただいて、改めて無性に聞きたくなった。でも、大貫さんの音源のほとんどはテープで、遠く実家のクローゼットの奥にしまったまま。名盤と信じて疑わないものなのに、近くのTSUTAYAにはレンタルCDもない(というか、大貫妙子のカテゴリーさえもない)。
どういうことか。

ということで、買ってしまいました。音楽CDを買うこと自体、本当に久しぶり。思わぬところで、ここ数年で音楽の購買スタイルが大きく変わったことに気付かされる。

YMOで目覚め、矢野顕子さんや Plasticsでさらに無邪気(のように見えて、当然かなり計算された)なポップなテクノの洗礼を浴びたところに、衝撃的な一曲目「CARNAVAL」。大貫妙子さんのソロ4作目となる『Romantique』は、これまでのやや内向きだった自分の音楽の方向性を、さらに中へ中へとに向けさせながらも、歌詞やそのヨーロピアサウンド(陳腐な表現ですが)で視野を広げてくれた重要な作品となった。

奥村靫正さんのアートワークが印象的なジャケットからも、ちょっと近寄り難い"謎の女"の香りが漂う。そして問題の「CARNAVAL」。地を這うようなベースライン(細野さん?明らかにシンセベースだけど)と正確無比なドラムパターン(幸宏さん)が絡むこのイントロは完全なテクノ。だけど、当時すでに歌謡曲にも浸食していった耳馴染みのいいテクノとはまるで違っていた。陰鬱、憂い、悲しみ...。あまり感情移入が少なく、淡々と歌っているように聞こえる(それでいて、芯が太い)大貫さんの歌声とが重なって、どっぷりその世界にはまってしまう。うねるシンセソロ(もちろん坂本教授)はエンディングまでかっこいい!

ただ、そのテクノテイストの曲はこの一曲だけ。それから先は、『Aventure』『Cliche』『Signifie』と後続のアルバムへ脈々と受け継がれる「ヨーロッパ路線」の曲が続く。どこか古いフランス映画で見たような世界に引き込まれる。「ディケイド・ナイト」のような奔放でどこか猥雑な夜の街の風景もいいけれど、物語から切り取られた生活の一部を歌う曲が好き。
特に「若き日の望楼」がいい。

あの頃 朝まで熱く パンとワインで 私たちは語った
馴染みの狭い酒場に 通いつめては 仲間たちをいやした
そしてあの頃のあなたも若くて 頑に愛し合い 
それがすべてだった 生きるすべてだった
貧しい絵描きの家に 子供が生まれ 祝い酒を囲んだ

貧しく、ほの暗い日々の中にも小さな希望を見つけて、たくましく生きる市井の人々の歌。
う〜ん、耽美的ではないですか。

そして、このストーリーは「ブリーカー・ストリートの青春」(『Aventure』)の回想に遡り、「風の道」(『Cliche』)へと連綿と続くのであった(「クロスオーバー・イレブン」のナレーションで)。

しかし、振り返ると高校生でこんな崇高な音楽を聴いていたとは、根が暗かったのかな。
後悔はしていないけど、まったく。


P.S.
問題の曲「CARNAVAL」の衝撃度を他の曲で例えるならば、Eurythmicsの『Sweet Dreams』あたりかな、自分の場合は。この曲もイントロから強烈でした。

スイート・ドリームス

スイート・ドリームス

春がいっぱい

「憲司さん、ほら見て、春がいっぱい❸」
「え、...お、おっぱいですか?」
「バ〜カ(怒)」

このアルバムの発売当時、TBSラジオの「スネークマンショー」(スポンサーは小学館「GORO」)でよく宣伝されていました。「おっぱいですか?」は伊部雅刀さんですね、絶対。

実は、大村憲司さんの曲、よく知りません。数あるアルバムの中でも、これしかちゃんと聴いていないかも。
でも、振り返って見てみると、自分にとって重要ないくつかの場面で大きく関わっていることに気付きます。

それまでもおそらく知らず知らずのうちに聴いていたのだと思うのですが、初めて「これが、憲司さんのギターなんだ」と意識しながら聴いたのは、やはりYMOのワールド・ツアーでのライブ映像でした。その頃は音楽的に無知だったということもあり、YMOテクノサウンドにギターという組み合わせに、実は少し違和感を感じていました。あまりKYLYNと変わらないんじゃないかとか、だからまだフュージョンとかクロスオーバーとして扱われるんだと、「YMO以前」のロックの歴史など知らない「テクノおのぼりさん」状態だったあの頃は、そんな無知で失礼なことを思っていました。でも、そんな勘違いを正してくれたアルバムのひとつがこれ(もうひとつは高橋ユキヒロ「音楽殺人」)。

YMOのツアーでも憲司さんがボーカルをはっていた "Maps" は、ノイジーなギターとYMOサウンドが融合してとてもカッコいい。"Far East Man" は、あのGeorge Harrisonのカバー。"Seiko Is Always On Time" は、奥さんの名前を曲名にしてしまっています(アルバムのクレジットにも、しっかりと「This album is dedicated to my wife Seiko.」の文字が!)

でも、やはり一番自分の思い出に残っているのは、NHK FM 「ふたりの部屋」(月〜金、22:50からの10分間、あの「サウンドストリート」の次の番組)で、当時はまだ新人エッセイストだった椎名誠さんの「さらば国分寺書店のおばば」がラジオドラマ化されたときの挿入曲とエンディングに使われていた "春がいっぱい (Spring Is Nearly Here)" と "The Prince Of Shaba"。いずれもインスト(歌なし)で、聴くたびに心優しくなれる曲です。奥さんを想って創り、そして演奏したのかな。

これがきっかけで、椎名誠さんの作品を読み漁り、自らも怪しい探検隊を気取って、カヌーをし、仲間と焚き火を囲むようになりました。椎名さんを招いて、大きなホールを貸し切ってトークライブや映画の上映会も企画するようになりました。1998年には、自分の企画・演出で、カメラマンとしての椎名氏にスポットを当てたトークライブを行ったのですが、その時のエンディングテーマに大村憲司さんの "The Prince Of Shaba"を流させていただきました。最初の企画立案から当日の演出、そして撤収まで、今思い出すと大変だったけど、幕が降りる時に、観客が帰り支度をし始める時に、この曲をみんなと聴きたかっただけかもしれません。この曲が流れ始めて、何人か出口に向かう足が止まる方が何人かいらっしゃいました。きっと、その人たちも同じ時間にあのラジオを聴いていたのかな。

同じ1998年2月、大村憲司さんはお亡くなりになりました。
獅子座流星群の星が群れが空を駈ける日でした。

大村憲司を知ってるかい?
http://www.1101.com/omura/2001-04-13.html

冒険王


冒険王 / 南佳孝 (1984)

前々回の『パールトロン』のコメントの中に、Cosa Nostraコーザ・ノストラ)という言葉が出てきたので(というか、自分で言ったんだけど)、すぐにこのアルバムのことを思いだした。

『摩天楼のヒロイン』以来の(南佳孝松本隆)の黄金コンビによる20世紀少年少女音楽読本。巨匠・小松崎茂画伯の描く近未来の空想世界がとても印象的なジャケット(装丁)からして、虚実混交の冒険ファンタジーの世界が大きな口を開けて待っている。プラモデルの箱によく描かれていた小松崎氏の空想画は、今となってはチープな未来だけど、蛇のように螺旋を描いた透明チューブが走る未来都市と、その中を走る”浮かぶ自動車”は、60年代子供だったボクたちの遺伝子の中に「共通の夢」としてしっかりと根付いた。そんなわくわくするような冒険絵巻のBGMに登場するのは、空中庭園、世界を旅する巨大風船(映画「バロン」が思い浮かぶのは自分だけか?)、若い頃は学生運動に明け暮れ、今ではすでに疲れきったマフィアのボス、そして魔都に迷い込んだ少女パメラと冒険者...。

俺達の世界、つまりCosa Nostraコーザ・ノストラ)を守るマフィアのボスは、摩天楼に響く乾いた音とともに自ら死を選ぶんだけど、やはり南佳孝の世界。なにもかも解放されて、彼はそれで幸せなんだよと教えてくれるようだ(川島 BANANA 裕二さんのアレンジもいい)。

そのほか、編曲は清水信之さん、大村雅朗さん、井上艦さんで、当然すべてすばらしい。
だけど一番はこの曲、「冒険者」。

密林に浮かぶ月
川岸の野営地で 手紙を記すよ
元気だと書きながら
もう2度と会えぬかもしれないと思う

伝説の魔境に明日旅立つ
古い地図を胸に抱いて
黄金郷(エル・ドラド)探す

君を愛してる わかるだろう
もしも帰れなくても泣かないでくれよ

同年、マッキンリーで消息を絶った冒険家・植村直己*1に捧げられた曲。

この曲で泣けない人とは、ボクは一緒に冒険はできないだろう。

*1:ちなみに、『植村直己物語』(主演:西田敏行)という映画があったけど、当初は椎名誠をキャスティングしたかったらしい。

ロマンティック街道/ブルーバード


KIRINJI - ロマンティック街道 / ブルーバード - EP - ロマンティック街道

とりあえずキリンジの最新の音源です。まずは『ロマンティック街道』から。

先行でリリースされていた『影の唄』が、しっとりとしたビッグバンドサウンドだったので、コロムビア移籍後初のアルバムは、Gino Vannelliのようになってしまうのか?と心配(いや、期待も半分)していましたが、こうきましたか。

これって、Kraftwerkですよね?

リミクシーズのRMX Vol.1&2で、打ち込みビートにもうまくはまるなぁと、彼らの作る曲そのものの守備範囲に感嘆していましたが、それを自身でやってしまうとは。でも、でもですよ、うねるようなイントロから、上昇して弾けるようなこの音は、まさにKraftwerkではないですか。でも、弟・泰行さんのボーカル乗ると、ああ、キリンジだ、よかった。今度はマリッジブルーに陥る女性ですか。いつも感心させられますが、ひとつの歌に小説一冊分ほどのイマジネーションを注ぎ込められる、稀代の才能の兄弟(この曲は兄・高樹さんの作詞・作曲)ですね。でも、聴いているうちに、以前どこかで聴いたことがあるような気がしてきた。
あ、そうだ。

こ、これって、『過激な淑女』ですよね?

踊り続ける 夜明けまで ずっと〜 (キリンジ:ロマンティック街道)
 ↓
時代は過激な淑女 傷付け合う短刀は シーツの波に隠してる (YMO:過激な淑女)

男を惑わす女と題材というのも、意識的な共通点を感じてしまう。でも、これって自分だけ?

キリンジテクノサウンドの接点というのも特に急な話ではなさそうだ。
泰行さんのソロプロジェクト『馬の骨』の「最低速度を守れ!」だって、イントロはやはりKraftwerkの『Autobahn』のチープなアナログシンセ音とかなり似ているし、車をモチーフにしている点も同じ。
高樹さんの「雨の日に家で聴く曲」というプレイリストでも、Kraftwerkがしっかりとラインナップされている。

でも、いい。
なぜなら私もKraftwerkが好きだから。
ということで、チャン・ドンゴン風に叫んでみてみる。